学園便り2009.7**************************

   「 「もの造りの社会性」とは、授業のひとこまより 」               


 もの造りは、造り手が使い手(利用者)のニーズに応える形で行われておりま
すが、使い手のニーズなら何でも応えるべしというとそうではありません。も
の造りの対象が建物のように大きくなればなる程、無秩序かつ我勝手なデザイ
ンといったことができないことはいうまでもありません。街という我らの生活
空間そのものが公共の場であるがゆえに、建物には特定の方のニーズだけでは
なく、公共のニーズといったものがベースでとなっております。ちょっと気取
っていえば「もの造りの社会性」といったところです。

 社会性というと硬い話というように取られがちですが、案外もの造りのプロ
でも時として社会性という基本を忘れがちになりますので、若いときこそしっ
かりと身につけておくべきものです。

  学生諸君は、現実の課題制作を通して社会性という基本を少しずつ身につけ
ていっております。 建築では、学生は設計を主に勉強しており、設計製図で
は実際に図面を描くことができるので特にがんばっております。

 具体的な設計課題としては、最初は住宅に始まり、次第に規模を大きく機能
もレベルアップさせて、美術館とか図書館などの公共建築も扱っていきます。
住宅はさすがに生活の基本ですので、良い住まいで良い住まい方をしたいとい
うことは誰しも異論がないところですが、対象がプライベートな次元から公共
的な次元へと飛躍していきますと、彼らなりに社会性というものを理解し成長
しないと、取り組むことができません。

  例えば、課題で美術館の設計の時こんなことがありました。建築に来ている
学生は、必ずしも美術の愛好家ということではなく、絵やスケッチが必ずしも
得意という訳でもありません。このためという訳でもありませんが、美術館へ
出向こうなどということはあまりなく、ましてやデートコースに入れようなど
とは考えもしない、といったようなことを学生が言います。(そこには、課題
でやれといわれたから、美術館を考えるかあ、といったニアンスでした。)

 そんなとき、さりげなく著名な美術館の例を出します。私は「でもね。金沢
の21世紀美術館は『美術を身近に』というキャッチコピーで、建築の設計には
各種工夫を凝らして来場者を楽しませていますね。」すると学生諸君は「それ
はそうだけれども、やっぱりいやだ。」「皆さん、自分が美術館に良い印象を
もたないなら、逆転の発想ですごく良いものを設計してみたら、きっとデート
コースに入れる人が増えるのでは。」「うーん。」

 学生諸君は今ひとつ釈然とはしないながら、自分自身の好みの次元を超えて
歩みだしている自分に気づきながらも、建築の社会性を少しずつ自分のものに
しているようでした。若者はこのようにして勉強していくのか。かくいう我ら
大人も気づかされる次第でした。

  最後に皆さんに一言。ここでは建築の社会性をいいましたが、建築に限らず
もの造りには社会性がつきものです。皆さん、各自の専門分野で社会性を考えて
みてください。社会性が身につくことにより、己が大きくなります。実感してみ
てください。

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